【最後にピン方式調整方法動画のリンクあり!】
今回は腕時計で一般的なピン方式のベルト調整方法を元時計屋の私が解説します。
説明書や時計雑誌にも載っていない細かなポイントなど時計販売をしてきた経験からコツやポイントなど詳しく解説しています。
まず時計工具についてですが、
ネット記事などで「代用品で出来る」と紹介されている場合もありますが作業がしにくく失敗するだけでなく時計にキズをつけてしまう可能性もあるので、お手頃な時計工具セットでもいいので専用工具を使って調整することをおすすめします。
おすすめ ⇒2022年8月にピン方式の調整方法を動画で作成しました。コチラもぜひ一度チェックしてみてください。動画のリンクは記事最後のまとめ部分にあります。
*個人でのベルト調整は自己責任で行ってください。
ピン方式の調整に必要な工具の一例
- ピン抜き棒(3種類の細さのセットがおすすめ)
- ハンマー(片側プラスチック製がおすすめ)
- ピン抜き台(予算があれば、万力タイプおすすめ)
- 透明のビニール(ベルトにスリ傷が付かないように)
年に数回程度のベルト調整をするくらいなら簡単な工具でもかまわないでしょう。
初心者向けの手頃な工具はAmazonや楽天市場などで1,000円前後から販売されています。ただし複数の時計をもっていたり電池交換もする予定なら工具セットを買う方がお得です。
Amazonでチェック⇒ピンタイプ調整用工具セット
外すコマ数の決め方
まずベルト調整では外すコマ数とバランスを決めないといけません。(コマ:ベルト一つの部品)
外すコマ数は大まかに決めて構いません、一度にベストにならなくても試着しながら再調整をしていきましょう。
ベルトの余りの見方
■購入して未調整の場合
購入後で未調整の場合はベルトを手でつまみ大まかに外すコマ数を決めます。
この写真の場合は4コマくらい外すのがいいでしょう。この場合は片方から2コマずつ外します。
調整の基本はベルトの両サイドから外しますが、
- 偶数を外す場合は両側から同数外す
- 奇数を外す場合は6時側を多く外す
となります。
■再調整をする場合
もうすでに調整してあり再調整をする場合は、時計とバックルの位置を見て平行か6時側が短いバランスになるように外すコマを決めます。
調整できるコマについて
ピン方式のベルトには調整できるコマには必ず矢印が刻印されています。
それ以外のコマはピンが固定されており外してしまうと元に戻らなくなってしまうので注意してください。
■矢印マークを確認
矢印とピンの向きについて
矢印とピンの関係を理解しましょう。
絶対に覚えていないといけないのは、
- ピンは必ず矢印方向に抜くこと
- ピン自体に向きがあること(割りピンのみ)
- 戻すのは矢印の逆方向から入れること
この3つは必ず覚えておいてください。
どれか間違えるとピンが途中で止まってしまい抜けなくなる場合があります。
*ピン方式には『割りピンタイプ』と『cリングタイプ』があります、分からない方は「時計ベルトの調整方式を見分けよう【写真解説】」で確認してください。
ここからは『割りピンタイプ』と『cリングタイプ』それぞれに分けて解説します。
■割りピンタイプ
割りピンは向きが決まっているので差し込む際に注意が必要です。
ピンを戻すときは割れていない方を先に入れてください。
■Cリングタイプ
Cリングタイプではピンに向きはありません。
ただし抜く方向と入れる方向は割りピンと同じように注意が必要です。
またコマを外すと中からとても小さなcリングが出てくるので注意してください。cリングを紛失するとピンが固定されなくベルトを固定できなくなります。
外すコマ数と調整コマとピンの方向などが理解できたらベルト調整を開始しましょう!
1.ピン抜き台に固定する
まずはピンをハンマーで抜くためにピン抜き台に時計を固定します。
*この時計を固定するための工具は今回使用している簡単なモノから固定幅を調整できる時計用万力まで様々ありますが、大切なことは不用意に動かないように注意することです。
ここがポイント
- 時計ベルトをビニールで挟んでセットする
- ベルトを固定する時には、なるべく動かないように固定してください。
- 抜くピンの位置がピン抜き台にある穴の上になるように固定します。
1.「時計ベルトをビニールで挟んでセットする」
作業中に時計が動いていまいスリ傷が付く可能性があるのでビニールに時計を挟んでセットしましょう。(ビニールは作業が見えるように透明がおすすめ)
時計を挟む前にピンが抜けるようにビニールにやや大きめの穴を開けてください。
2.「ピン抜き台に固定する」
このタイプのピン抜き台はそれぞれの列で幅が違うので、なるべく動かない所に時計をセットしてください。
このときにピン抜き台にある穴のちょうど上にピンがくるように時計を置きましょう。
2.ピン抜き棒で抜く
時計用のピン抜き棒は細く強度があるので確実な作業が可能です。(針金やクリップなどで代用することは個人的におすすめしません)
ハンマーは片側がプラスチック製でキズをつけないようになっているタイプがおすすめです。
ここがポイント
- ピン抜き棒を指先で固定する
- ハンマーで叩くときは、少しずつ数回に分けて叩く
- cリングタイプは抜く途中で少し細目のピン抜き棒に変える
1.「ピン先に指先をそえて叩く」
ハンマーで叩く時にピン先に指先をそえるとピンが安定します。
ピン先が安定していないと叩いている最中にピン先が抜けて時計にキズをつける失敗につながるので、必ず指先をそえるようにしましょう。
2.「少しずつ数回に分けて叩く」
ピンの抵抗を感じるように少しずつ優しく叩いて下さい。硬くてまったく動かないようなら違うコマを試してみましょう。
3.「ピンは完全に抜いてしまう」
ピンを最後まで抜かなくてもコマは外れますが、知らないうちにピンを紛失する原因になるので抜いてしまいましょう。
使っている時計なら抜いたピンを拭き掃除してから戻せばサビ予防にもなります。
*「cリングタイプのコツと注意」
cリング式はピンが動き始めたら少し細目のピン抜き棒に変えるのがコツです。
ピン抜き棒を変えるタイミングは抵抗が少し変わったときですが、分からなければ少し抜けたくらいで変えてもかまいません。
変える理由は、コマの中のcリングにピン抜き棒が刺さってしまい抜けなくなるトラブルを防ぐためです。
ピンが抜けるとコマの中のcリングも外れるので時計を動かすときは細心の注意が必要です。
3.コマを外す
「1コマ外す」1コマ外すなら2コマ連続でピンを抜く。
「2コマ外す」2コマ外すなら1コマとばして3コマ目のピンを抜く。
4.ピンを戻す
ピンを戻すときは割りピン式はピンの向きに注意してください。
またピンは必ず矢印刻印の逆向き方向から差しこんでください、間違えて入れるとピンが途中で動かなくなって外れなくなるトラブルにつながります。
ここがポイント
- 最初は叩かず固定台で押し込む。
(最初からハンマーで叩くと出でいるピンが長いので安定せず、ピンが曲ってしまう場合があります) - cリングタイプはcリングを忘れずに!
(コマの中にある穴に戻す、穴の大きさが違うので片方にしか入らない) - 最初は固定台などで軽く押し込む。
(割りピンタイプはほとんど抵抗が無く入ります、cリングタイプはピンがcリングに届くまでは抵抗が無くcリングに当たると抵抗が強くなります) - ハンマーのプラスチック側でほぼ平らになるまで叩いて打ち込む。
(ビニールをかけて、ほぼ平らになるまで打ち込むと、最後の調整作業がしやすくなります) - 最後にピン抜き棒で、ピンを少し中まで打ち込む。
(ピン抜き棒のピン先がズレないように指先をそえて打ち込みます)
最後に両方のピン先が同じバランスで打ち込まれているか確認してください。
*「cリングタイプのみ」cリングを戻す。
1.「矢印の方向を確認する」
必ず矢印の逆向きからピンを入れます。割りピンはピンの向きにも注意してください。
2.「固定台で押し込む」
いきなりハンマーで叩くのではなく、ピン抜き台などのフチでグッとピンを押し込んでください。
ピンが長く出たままハンマーで叩くとピンを曲げてしまうことになりかねません。
3.「ギリギリまで叩きこむ」
ピンを戻すときもビニールでベルトを保護しておきましょう。
透明のビニールだとピンが見えるので叩き間違うこともありません。また最初はハンマーのプラスチック側でピンを叩きこむのがおすすめです。
4.「ピン抜き棒で調整する」
最後はピン抜き棒でピンを少しだけ中に叩き込みます。
またピン先に指先をそえて、少しずつピンの先を叩いて押し込んでいきます。
5.試着して確認してみる
ベルト調整後は必ず試着してしてみてサイズとバランスを確認しましょう。
適正のベルトサイズは好みで変わってきますが、指先が入るくらい余裕があるサイズが一般的におすすめされています。
試着のポイント
- 指一本くらい入りますか?
- 手をついてみてキツすぎませんか?
- 時計が外を向いてませんか?
理想のサイズ、バランスは個人の感じ方で大きく違う場合もあります。基本と違っても良いので好みに合うように調整するのがいいでしょう。
サイズやバランスについて詳しくはこちら⇒「時計ベルトのサイズとバランスを確認しよう!」
ピン方式の調整まとめ(解説動画のリンクあり)
調整作業の全体像がイメージできれば失敗することはないでしょう。
- 工具の適切な使い方をしっかり理解しておく
- 作業手順のイメージトレーニングをしておく
- ハンマーの力加減は優しく数回に分けて叩く
- サイズだけでなくバランスにも気を配る
これらに注意して落ち着いて作業をしましょう。
調整作業の手順だけはこちら
調整作業中に手順だけを確認しやすいように、細かな注意事項を省きスマートフォンなどでも見やすい「ピン方式のベルト調整かんたんマニュアル【写真メイン】」もご用意しています。
*ほとんど写真なのでスマホでも見やすいと思います
時計販売の初心者におすすめ工具
もしあなたが時計販売をしているなら上記の工具以外に明工舎のバネ棒外しをおすすめします。
明工舎のバネ棒外しがあればベルト調整だけでなく、微調整やベルト交換の作業まで幅広く対応ができるので一本は持っておきましょう。
■替え先のセットがおすすめ!
詳しく→時計販売の初心者におすすめの工具「明工舎のばね棒外し」
電池交換にもチェレンジしたいならコチラ!
▼工具セット(入門用)
コメント
時計購入時に予備のコマを店主からいただきましたが、コマピンの他に小さなピンがあり、これは何だろうと思っていました。cリングということを初めて知り捨てないでよかったぁと安堵しました。
ベルト調整方法についても解説、写真と素人には大助かりです。ありがとうございます。
黒川さま
コメントありがとうございます。
コマを捨てなくてよかったですね!
たしかに時計のベルト調整後にコマをもらっても、ふつうの人には必要かどうか分かりにくいですよね。
ベルト調整方法の記事がお役に立てたようで、嬉しかったです。
お気に入りの腕時計を大切にしてください。
watch-mix管理人より
お店で買えばコマ詰めしてくれるけれど、通販の方がどうしても安い。
悩んでいたところこのウェブをみて踏ん切りが付きました。
自分でコマ詰めするのも成功!
うれしかったです。どうも有り難うございました。
ピン抜きする方法は書いてあるウェブは多いですが、ピンを差し込む方向、力加減を書いてあるウェブはここだけでとても参考になりました。
ただ、ピン抜きですが、私の持っているピン抜き棒の最小径のものでもCリングを貫通して押し出すことができず、ピンがでてきた裏からラジオペンチで引き抜きました。
Cリングが入っていることは予習済みだったので、意図せずベルトがばらけないように養生テープで留めていたので、無事Cリング回収できました。
いろいろ勉強になりました。感謝です!
午睡猫様
コメントありがとうございます。
cリング式は慣れないとcリングを紛失する失敗が多いのですが、上手く調整できて良かったですね!
ベルト調整が自分で出来れば季節や体調に合わせてベルトサイズを変えれるので、もっと時計が好きになれると思います。
この記事がベルト調整のお役に立てて幸いです。
watch-mix管理人より
ピン方式だと思うのですが、爪楊枝一本で調整出来ました。
その気にさせて貰えたのは詳しい説明のお陰です。
ありがとうございました!
彷徨える子羊様コメントありがとうございます。
サイズ調整を自分でチャレンジする切っ掛けになれて幸いです。
お気に入り時計を思いっきり楽しんでください!
watch-mix管理人より